金木犀味のラムネ

金木犀とラムネが大好きなこじらせサブ(ス)カルチャー系学生が普段の生活で出せない部分を出していく予定。

三題噺。

今日のお題は、とジェネレーターに訊ねたところ、「携帯」「チョコレート」「少年少女」だそうだ。なんとも私に似合う三題だな、と思った。





世の中には、恵まれた人間と、恵まれない人間がいることをご存知だろうか。恵まれた人間とは即ち、まあ、今流行りのアプリゲームで喩えるならば、「課金しなくともガチャを引いたら激レアアイテムだった」という話の中に登場するその激レアアイテムのことを指す。生まれつきから、何もかものステータスがマックス値となり、容姿装備諸共完璧な人間。その逆は、言わずもがな、「課金したのにガチャを引いたらザコアイテムが出てきやがった」という話の中に登場するそのザコアイテムのこととなる。恵まれない人間は、いつまで経っても恵まれない。それはこの世の常であり、長年の歴史でも繰り返されてきたサイクルでもあった。

「否、それを覆そうとも思ってないがな。」
「なら、なんでそんな話をしたんだ。」
「暇潰しだ」
「呑気にチョコレートを食ってる暇を潰してやりたいね、僕は、今すぐ。そこの目の前の書類を片付けやがれ、このボンクラめ。これだからいつまで経ってもお荷物扱いされちまうんだよ、お前は。」

僕はその話を聞く限り、まあそこそこに、いいアイテムを引いているんだろう。目の前のぐうたら怠けるコイツも同様に。今頃「携帯電話」と呼ばれてもいないようなガラパゴス携帯をパカパカと持て余すコイツも、同様に。いや、正確には激レアアイテムを引いたのではなく、物語に必要でもなければ、無くては困る理由でもない、しかし存在していても害はないような、そんな僕らであった。
少年少女、と言うにはもう歳を取りすぎた僕らはせっせと書類を片付けている。小さなこの事務所には僕と、目の前のコイツしかいない。

訂正しておくが、少年少女というのは間違いではなくて、この目の前のコイツは数年前まで「とても清楚で可憐な女の子」だった。今ではその少女らしさの欠片もない、口調さえ男みたいな物言いをし出してしまっているのだが。彼女曰く、

「女の子は飽きた」

そうだ。意味が分からない。

短く切りそろえた前髪すら魅力的なのだが、これでは当分彼氏なんて出来ないだろうな…と僕が無礼なことを考えていることを見透かすかのような視線を向けられたが、僕は怯まずそんなアイツの目の前にコーヒーを置いた。

「なあ、」
「あ?」
「なんで、不幸なことは起きると思う」
「さあ?なんでって…」
「俺はな、俺は、…不幸なことは、試練とかなんとかとか思っちゃいねぇよ。ねーよ、全く。でも、不幸なことは必ず起こる。これは、非日常的なことでもないし、世界中みればどこでも有りうることなのに、俺らはこの世で自分が一番不幸だと思い込むだろ?そこがみそだ、そこが。不幸じゃねーよ、実際。傍からみりゃ、充分俺の方が不幸な人生、不遇な人生を歩んできたと思うね!でも、何故人は不幸なことが起きると、勘違い、してしまうんだろうな?それはな、次に待ち構えることを、些細な嬉しさや快感を幸せ、と、『勘違い』したいからだ。そうは思わないかい?ワトソンくんよ」
「僕の名前はワトソンでもなければお前はホームズでもねーよ。…しかし、それだと、問には答えてないんじゃないか?」
「…ああ、そうだな。すまん、今ちょっとむしゃくしゃしてたわ。」

そう言って彼女は、チョコレートを、ムシャムシャと食べた。

「人の不幸談を聞いても俺は、だいぶ動じない人間になっちまったよ、これが一番の不幸だ」
「あーそうだな、まあ人間、誰しも不幸は蜜の味とも言うし、それは本質的な部分じゃないのか?」
「本質ね…」


彼女はそう言うとコーヒーを飲んでから、ニヒルな笑みを浮かべてこう言った。

「屋上から飛び降り自殺する光景を見ながらコーヒーを飲んで黄昏るのも、そこが通行止めになって舌打ちをするのも、その自殺のおかげで仕事が切り上げになって喜ぶのも、本質という一言で片付いちまうのか。なんとも、便利だね、日本語ってのは。」

いや違う、と彼女はすぐに口をついて訂正した。

「便利なのは日本語じゃない、俺らが育った環境によって蓄積された無関心、かな。」